『 習得への情熱』を読んだら、”学習の新たな可能性”がみえた|感想

習得への情熱
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今回紹介する本は『習得への情熱―チェスから武術へ―』。

著者はチェスと太極拳を高いレベルまで極めたジョッシュ・ウェイツキン。

”ボードゲーム”と”武術”に接点はないように見えるが、上達するために必要な考え方には共通点が多くあるという。

だからチェスを学ぶ術は、太極拳を学ぶときにも応用した。

本書では、そんな著者が自身の経験を振り返り、どのようにしてチェスと太極拳をマスターしたかを具体例を紹介しながら解説している。

でも正直、内容は自身の経験談が多いので、ハウツー本というより自伝に近いです。

とはいってもビジネスでも、スポーツでも、ありとあらゆる分野でいかせる学習方法や著者独自の考えも多く紹介されています。

目標を達成するために自分の成長を必要としている人にオススメです。

※本書の見どころをまとめたら、メッチャ長文になってしまいました。だから目次をみて気になったところを読んでみてください。たぶん全文読むと疲れます。

目次

ジョッシュ・ウェイツキンとは

1976年ニューヨーク生まれ.少年時代はチェスプレーヤーとして数々のトーナメントで活躍,16歳でインターナショナル・マスター(IM)となり,全米ジュニアチェス選手権(21歳以下部門)2年連続優勝,世界チェス選手権(18歳以下部門)ベスト4をはじめとする優れた戦績を収める.
父親のフレッド・ウェイツキンが幼年時代のジョッシュを主人公に,チェスプレーヤーたちの人間模様を描いた著作Searching for Bobby Fisher(Random House, 1988)〔邦訳『ボビー・フィッシャーを探して』若島正訳,みすず書房(2014)〕は映画化もされ,大きな注目を浴びた.
1998年から太極拳の一部門である推手を習いはじめ,数年のうちに全米選手権および世界選手権のタイトルを獲る実力となる.2004年にはこの競技の最高峰の闘いの場である中華杯国際太極拳選手権(台湾)で二部門を制覇.その後はブラジリアン柔術に力を注ぎ,2011年には世界屈指の柔術家であるマルセロ・ガッシアの下で黒帯となる.本書で語っている習得の心理的技法については全米各地の教育機関へ講演や助言を提供しているほか,柔術と教育の両方への関心を生かして,ガッシアの道場Marcelo Garcia Academy in NYCのオンライン版MGinaction.com(トップレベルのグラップラーたちの詳細なテクニックの動画をアーカイヴしたウェブサイト,www.mginaction.com)をガッシアとともに立ち上げた(2015年現在,継続運営中).定評あるチェスのコンピューター・ゲームChessmasterの最新版(ver. XI,Chessmaster: Grandmaster Edition)には,チュートリアルを提供している.

引用元:Amazon

そもそもどうやって技術が身につくか?

まずは事前知識として技術(または知識)習得のプロセスを紹介します。

著者は学習プロセスを分析すると、一つのパターンが見えるといいます。

「論理が吸収される、根付く、忘れられる」

このプロセスを経て、”技術”が定着すると考えているそうです。

イメージしやすいように、将棋の初心者を例に説明します。

将棋を習う場合、まず初めに駒の動き方を学びます。

学んだばかりの頃は駒の動き方を意識的に思い出す必要があるため、一つの駒を動かすのにも苦労します。

だけど慣れてきたらどの駒がどこに置けるのか直感的に理解できるようになる。

つまり駒の動かし方をいちいち思い出さなくても、無意識のうちに駒を動かせるというわけです。

ゆえに駒の動かし方をマスターするとき、「知って、覚えて、(無意識で)使える」のプロセスを経てやっと身につくというわけです。

この考え方はどんな分野でも応用可能です。

どの分野の技術を身につける際にも、このプロセスは習熟度の指標になり、目標にもなります。

この一連の学習プロセスを参考にすれば、自分の成長度合いを計りながら技術や知識を身につけていくことができるのです。

技術や知識が身につくプロセスは「論理が吸収される、根付く、忘れられる」。

より小さな円を描く

著者は技のレパートリーを増やすよりも基本的技術を徹底的に理解することに注力しました。

そのとき『より小さな円を描く』という言葉をコンセプトに鍛錬を積みます。

『より小さな円を描く』とは著者オリジナルの言葉で、『基本的なスキルを徹底的に理解して、そのエッセンスを小さな動きに凝縮すること』を意味しています。

これだけではわかりにくいので、本書にあったストレートパンチの磨き方を例にあげて説明します。

①身体の動きと感覚を理解する

この段階のゴールは正しいフォームでパンチを打てるようになることです。

そのためにスローモーションで反復練習し、足から拳まで力が伝わる感覚を確認します。そして正確なパンチのフォームとその感覚を身体に染み込ませるのです。

②”お茶を注ぐ”ように打つ

身につけたフォームはそのままで、徐々に動きのスピードをあげてパンチを打つ練習を積みます。ここで目標にすべきは、何も意識しないで打てるようになるということです。たとえばお茶を注ぐときは何も意識しせずコップに注げると思います。その感覚と同じようにパンチを打てるようになることが理想的です。

③動きを凝縮する。(より小さな円を描く)

何も意識せず正しいフォームでパンチを打つことができるようになったら、フォームをコンパクトにしていきます。そのとき①、②の段階で学んだ、パンチには欠かせない要素は保ったまま、無駄な動きを削ぎ落とします。(たとえばだけど、体重移動に支障がでない程度に引く腕の動きを小さくするみたいなイメージ。)

それによって磨き上げられ、洗練されたストレートパンチが完成するのです。

以上が著者流のストレートパンチの磨き方になります。

この過程をまとめれば

『技術のエッセンスを理解する、無意識で使えるようにする、洗練する』

という感じです。

ストレートパンチは一例なので、この過程を他の分野で応用すれば、洗練された技術が身につくはずです。

筆者は、この『より小さな円を描く』を実践し、チェスと太極拳の理解を深めていきました。

そしてこうも書いてあります。

トップになるために必要なのは、ミステリアスなテクニックなんかではなく、一連の基本的な技術とされているものだけを深く熟達させることだ。

引用元:習得への情熱 P143

もしかしたら基本技術の理解度こそ、凡人と達人の差なのかもしれません。

百の技を身につけるより、一つの基本技術を深く学ぶ

上達しやすいタイプ、しにくいタイプ、あなたはどっち?

本書では上達が”しやすいタイプ”と”しにくいタイプ”の違いが解説されています。

それは『実体理論者』と『習得理論者』に区分されて語られています。

『実体理論者』とは、カンタンに言えば、能力は才能によって決まると信じる傾向にあるタイプの人のこと。

一方『習得理論者』は、能力は努力すれば増大させることができると考える傾向にある人のことです。

名前からもわかると思いますが、上達が”しやすいタイプ”は『習得理論者』。

能力は努力次第で何とかなると信じているため、結果は努力で変えられるとわかっています。だから困難に直面しても努力で乗り越えることができるメンタリティを持っているのです。

たとえ今のあなたが『実体理論者』の傾向にあったとしても大丈夫。

『実体理論者』と『習得理論者』の分岐は子どもの頃に受けた教育の影響も大きいとありましたが、手遅れということもないようです。

年齢は関係なく学習することの認識は改善できるという意識を持つことが大切だとも著者はいいます。

『習得理論者』は結果よりも過程に焦点をあてることを大切にしているタイプです。だから結果の良し悪しではなく、努力によってどんな結果を得られたかを意識しています。

なのでいい結果がでたとしても、その結果に喜ぶだけでなく、努力をしてきた過程にも目を向けて自分の努力を褒めましょう。

それが上達しやすい人間に変わる第一歩になります。

上達しやすい人は、結果よりも過程(努力)を重視する

負の投資を課す

成長するためには失敗や敗北といった”負の経験”をしなければならないと、著者は考えているようです。

その経験を積極的に受け入れることを、本書では”負の投資”と表現されています。

そして著者はこの”負の投資”をすることを大切にしたという。

なぜなら弱点や課題を浮き彫りにすることができるからです。

たとえば学ぶ対象が何であっても、同じミスを二度と繰り返すことがないなら、その人物はラクにその分野でトップになることができるはずです。

でもそんな芸当をできる人間はいません。誰もが同じ課題に悩み続けて、同じミスを繰り返します。

しかもそういう種類の課題は根が深く、把握するのは難しいです。

でもその課題を探し当てて、克服できれば確実に成長ができます。

だから上達するための近道は、負の経験より根源的な課題を探しだし、それを見極め、ミスの繰り返しを最小限にとどめることなのです。

だから成長には、”負の投資”を自分に課す時期が欠かせません。

著者自身も太極拳を学ぶため、自分よりも強い相手と対峙し続けたといいます。

何度も何度も投げられて、そこから上達するためのヒントを得たのです。

そして最終的にはその相手を投げ返せるまでに成長できました。

もちろん自信を失わない程度の成功体験は必要です。けれど高いレベルを目指すのなら、失敗を積極的に受け入れて成長を促すことも必要不可欠なのです。

失敗すればするほど、根源的な課題を見つけられる確率はあがる

”ゾーン”にアクセスするために

”ゾーン”とは、『超集中状態』のことです。

スポーツ選手がハイパフォーマンスを見せるとき、この状態にあると言われることがあります。

スポーツ界隈で使われることが多い言葉ですが、アスリート以外でもこのゾーンに入ることができれば、日常のパフォーマンスが向上することは想像できるはずです。

で、本書ではそのゾーンに入るための方法が解説されています。

そのためにすることは2つ。

  • ストレス・アンド・リカバリーを鍛える
  • ルーティンをつくる

それぞれを分けて説明します。

ストレス・アンド・リカバリーを鍛える

『ストレス・アンド・リカバリー※1を鍛える』とは、精神的あるいは肉体的疲労から回復する力をトレーニングするということ。

このトレーニングをすることによって、短時間の息抜きでリラックスできるようになり、それに伴って身体的なアクションが心理領域にアクセスしやすくなるのです。

そして次に話す『ルーティンをつくる』のとき、この身体と心を行き来する感覚が大切になります。

では、本書にあった日常で取り組みやすいトレーニング方法を紹介します。

まずは読書中でも仕事中でも精神的なスタミナ切れを感じたら、深呼吸したり顔を洗ったりなどしてリラックスします。そしてリフレッシュした気持ちで作業を再開する。

たったこれだけ。

ただしここで意識しなければならないのはリフレッシュにかかった時間。徐々にその時間が短くなっていけば、トレーニングは順調です。

これによって精神的なスタミナもつくそうなので、試す価値はありそうです。

※1たとえばテニス選手の中にはポイント間でガットを整え、気持ちをリラックスさせている人がいますが、これはストレス・アンド・リカバリーに則っての行動です。

ルーティンのつくりかた

ゾーンに入るためのトリガーとして、ルーティンを持つことを著者は勧めています。

そうすれば必要なタイミングで集中した状態に入ることができるのです。

ルーティンをつくる手順は次の通り。

日常生活の中から自分がリラックスできる活動を探す。

これは息抜きできる程度のモノで問題ないようです。音楽を聴くでも、ストレッチするでも、シャワーを浴びながら歌うでも、リラックスして集中できる活動なんでも大丈夫。ただしどこでもできる活動が理想的です。

②4~5ステップから成るルーティンを習慣化する

次に4〜5のステップでルーティンを構成し、それを習慣化します。

ここで大切なのは一つの活動と心理状態を結びつけること。たとえば”音楽を聴くこと=リラックスした気持ち”というセットで身体に覚えさせることが肝です。

こうすることで重要なイベントの前にルーティンを行えば、緊張することなく、普段のリラックスした心理状態で実力を発揮できるというわけです。

ルーティンを凝縮する。

最終的にはルーティンにかかる時間を少しずつ短縮させる必要があります。

(より小さな円を描くのコンセプトの応用です。)

集中力を高めたいとき準備する時間がたっぷりあるならいいけれど、毎回そんな都合よくいかないことも多いはず。だから忙しくて余裕がないときのためにも少しずつルーティンにかける時間を削っていく訓練が必要です。たとえば音楽を聴くというルーティンを持っているのなら、少し短めの曲にするとか。

時間があるときは普段通りでもいいけど、余裕がないとき用の短縮させたルーティンを用意しておけば、いつでもベストパフォーマンスを発揮できます。

”リラックスする力”を鍛えて、ルーティンを身につければ、好きなときゾーンに入れる

最後に

正直、本書を読むのは苦労しました。

翻訳本であることもそうだけど、独自の表現が多かったり、チェスと太極拳の経験談が多かったりで理解するのに時間がかかりました。(僕の知識不足のせいかもしれないけど)

でも読んだ価値はありました。

”凡”な自分では思いつけなかったアイディアが多くあり、それには可能性を感じています。

もしあなたが伸び悩みを感じているのなら、その突破口に本書はなるかもしれません。

「トップに立つ人間が何を考え、どうやって鍛錬を積んできたのか」

それを知りたい人にオススメしたい本でした。

【余談】努力が報われなかったときどうするか?

努力が報われないことは、人生ではよくりますよね。

そんなときどうすればいいのか?

そのヒントが本書で紹介されているエピソードにありました。

あるところにA君という子供がいます。A君はある大会に出場し負けてしまいました。その大会を目標に努力を続けてきたため、彼はひどく落ち込んでいます。

ここで一つ質問。

もしあなたがA君の両親だとしたら、何て声を掛けるでしょうか?

考えれば様々なアプローチが頭に浮かぶと思います。そしてその中には「勝ち負けは重要じゃない。」という言葉が浮かんだ人もいるはずです。

でもこの言葉は一番言ってはいけない言葉として本書では紹介されていました。

なぜなら彼がこれまでしてきた努力を否定することになるからです。

勝敗が重要でないなんて言われたら、勝利を求めて努力してきた日々は何だったのかと、彼は思ってしまいます。

だからもしここで声を掛けるとしたら、まずは共感してあげることが大切だと筆者はいいます。

彼の悔しい気持ちを認めて、理解してあげる。

そして落ち着いてきたら次は振り返りを促す。なぜ負けてしまったのか、この場では技術面よりメンタル面の反省をしておく方がいいそうです。

メンタル面の失敗が何だったのか理解できれば、その課題は当面の目標として持つことができるし自分自身の性質について内省することができます。

こうして敗戦(または失敗)は成長するためのチャンスと捉えるようになるそうです。

このエピソードは、大人にとってもタメになる話だと思いました。

大人の場合、報われないことがあっても誰も助けてくれません。だからA君と両親の二役を一人で演じることになります。

そして自分ひとりで気持ちを受け入れて、反省するということを行う必要があるのです。

そうすれば、ただでは転ばない、失敗から学べる人間になれると思います。

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