深沢七郎という人物をご存じでしょうか?
ジャンルを超えて幅広く活動をしていたため一言で説明するのは難しいけれど、簡単に説明すると昔の有名な文化人です。
僕自身は今日紹介する本「人間滅亡的人生案内」を手にするまで名前を知りませんでした。だから本を買ったのも偶然立ち読みをして興味を持ったのがキッカケです。
本書は「話の特集」という昔の雑誌で連載されていた、読者投稿の企画をまとめた一冊になります。
読者が悩み相談をして深沢七郎が回答していくというシンプルな構成なのだけど、回答の切り口が独特で面白かったです。
常識から離れた、独自の人生観に則って答えられていて、そんな考え方もあるのかと感心してしまうところが多くありました。
(逆に独特過ぎて首を傾げたくなるところもありはしたけれど)
たとえ深沢七郎を知らなくても楽しめる本なので、人生に悩みを抱えている人にはぜひ読んでみてもらいたいです。
過激な時代に生きる若者たちの悩み
この企画が連載されていたのは1967~1969年の間。
日本で学生運動が盛んに行われていた時代です。
若者たちが社会に憤り、大人たちと激しく対立し、自分たちの理想を実現しようとしました。(その方法が正しかったかどうかは微妙なところですが)
直接活動に参加していなくとも、同年代の人間が”社会”の大人たちに抗議する姿は、多くの若者たちの価値観に影響を与えたはずです。
悩み相談の投書を送ったのは、そんな激動の時代を生きている若者(20代前後)たち。
とはいっても送られてきた当時の若者たちの悩みは今の時代の若者とそんなに変わりはありません。
「仕事にも趣味にも熱中できない」、「集団生活が苦手で定職に就けない」、「好きな男性に溺れてしまって何も手につかない」など、若者特有の悩みが多いです。
どの相談も個人的な話で、読んでいると他人の人生を盗み見しているような面白さがあります。
もちろん当時の雰囲気に急かされて「自分も何かしないと」と焦る気持ちが伝わってくる悩みも多くあります。でもやっぱりそこには現代の若者と共通した将来の不安に似た気持ちがうかがえました。
時代なんて関係なく若者の誰しもが共感してしまう悩みが多くあるので、至る所で自分のことのように読んでしまいました。
知らないおじさんのクレイジーな回答
悩み相談の回答者である深沢七郎の肩書きはさまざまあります。
”小説家”で”ギタリスト”で”農場と今川焼屋の経営者”。
ギタリストしては全国をリサイタルして回り、小説家としては”川端康成文学賞”や”谷崎潤一郎賞”の文学賞を受賞したりもしています。
ジャンルは問わず幅広く自由に活動をして、どれもうまくいっているのだから多才だったようです。
そして経歴を見てもわかるように、我が道を行くタイプで、文章を読めば確固たる人生観を持っていたことがわかります。
そしてそんな人の回答が普通なわけないんですよ。
深沢七郎のクレイジーっぷりはどの回答にも反映されていて、社会の常識にとらわれず、思いっきりがよくて、読んでいて清々しい気分になります。
もし生きていたら自分も悩み相談を送って、けちょんけちょんに言われたかったなと思いました。
「人間なんてぼーっと生きればいい」
本書の中で特に気に入っている回答があります。
それは生きていることは悲しいという女性の相談に対する回答です。
生きていることは悲しいことだと思う必要はありません。生きていることは楽しいことだと思う必要もありません。
ただぼーっと生まれてきたのだから、ぼーっと生きてればいいのです。
人間滅亡的人生案内 P56
個人的にはとびっきり素敵な考え方だと感じました。
人生がつまらないと感じるとき、人は人生に期待し過ぎてしまっていると思うんですよね。
もっといえば毎日が楽しくないと、その人生は間違えだと勝手に考えてしまっていることが多い気がします。
それってしんどいですよね。現実はそんな楽しいばかりのことでもないし。でも深沢七郎の言う通り、ぼーっとフラットな感覚で日常を過ごせれば生きやすくなる気がします。
僕はこの回答に救われるところがありました。
他にも刺さる言葉はあるので、生き方に対する新しい視点を得たい人にオススメしたいです。
最後に(感想)
本書の面白さは深沢七郎と相談者の個人的な人生観を楽しめるところにあるけれど、読むと”人生に対する力みが取れる”というところも魅力的です。
どの回答の根底には、「深く考え過ぎず気楽に生きようぜ」的なメッセージがあるように僕は感じました。
だから読んだ後は、「まぁ人生なんとかなるべ」って気分にさせられます。
それに本書の構成が”悩み相談→深沢七郎の回答”というパターンになっているため、適当なページを開いて読んでも問題なく楽しめて、肩ひじ張らずに読めるのも気楽でいいです。
日常を忙しくしている人にも読みやすい本であり、そういう人にこそ読んでみてほしい一冊です。